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手残り現金の試算からつくる「3段構えの売却戦略」
ここでは、納得できる売却を実現するために売り主自身がある程度の価格戦略を自ら立てることをテーマに解説していきます、参考にしてみてください。
まずは、売り出そうとしている物件が『いくらぐらいで売れそうなのかという相場観』を、実際の手取り家賃収入を市場の期待利回りで割り戻すことで大まかにでも把握します。
その上で、ローン残高に加えて手数料や税金といった諸費用を差し引いて手元にいくら現金が残せるかの試算から、『自分のなかでの売っていい価格、売りたくない価格』をイメージします。
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そして、この二つの結果を見比べることにより、そもそも希望している価格で売ることが現実的なのかどうかを確認でき、さらに実際に売り出す際に、納得のいく形で売り切るための戦略を立てることもできるようになります。
実例で見ていきましょう。
■3段階の価格戦略が〈納得できる売却〉を実現させる
たとえばローン残高や手数料、税金を差し引いて手元に300万円ぐらいは残したいので「売るのなら2,000万円以上で」という希望が出たとして、そもそも市場の相場観が1,500万~1,700万円ぐらいと予想されるようなら、売り出しを考え直すのが現実的な選択となるでしょう。
一方で、「2,000万円以上なら売ってもいい」というなかで、市場の相場観が1,900万~2,100万円なら、希望と合う価格で成約できる可能性が高くなるので、売り出しが現実的になってきます。
このケースで実際に売り出すことを決めた場合、納得のいくかたちで売り切るための戦略は、次のようになると思います。
「最初は相場より少し高めに売り出し(たとえば2,200万円)、一定期間売り出してみて動かないようなら少しずつ価格を下げてみる(たとえば2週間ごとに50万円ずつ価格を見直す)。ただし、値引き交渉も含めて2,000万円を下回る価格へは絶対にしない」
こういった戦略をとることが、相場より高い価格での成約を目指しながら、それが叶わないなら現実的なレベルでの成約を狙いながらも、後で後悔するような売り方をしないために最適です。
このように、売り出しの価格については3段構えで考えることがおすすめです。
もう少しこの3段階を細かくみておきます。
【第1段階】相場より少し高めの売り出し価格を設定する
不動産は同じものが2つとなく、似たような物件があったとしても、立地、建物の特性、部屋の形状や位置など、1つひとつの物件はそれぞれ個別性をもっています。
また、購入を検討してくれる側の投資家も、投資に対してそれぞれの考え方や視点をもっています。
ある人は投資物件を初めて購入するため、数字よりも安定性を求めるかもしれません。
また、あるベテラン投資家は入居者が退去した後のバリューアップの可能性まで見込んで、物件の価値を測るかもしれません。
物件Aと物件Bは同じようなエリアにある同じくらいの築年数の物件で、投資家Hはどちらにも特別な魅力を感じないので数字のみで判断します。
一方で、投資家Iにとっては2つの物件のうち、物件Bだけはなにかしらの嗜好や注目している視点で、ほかの物件とは代えがたい魅力を感じて、数字以外の部分で購入を決めるかもしれません。
「売り出し始めは相場よりも少し高めに売り出す」ことをおすすめする理由は、こういったところにあります。
立地や築年数などでおおよその相場観があったとしても、その物件が売れるかどうかは、たった1人の購入希望者が手を挙げてくれるかどうかで決まります。
売り出した物件に特別な魅力を感じてくれる購入希望者が存在している可能性を踏まえて、一定期間はチャレンジングな価格で様子を見るのです。
売り出しを開始すると、パートナーである仲介業者はレインズに売り出し情報を登録します。
すると、全国約12万の不動産業者が、その情報を取得できることになります。
その状態で一定期間が経てば、その物件情報は全国の不動産業者を通じて、あらゆる投資家へ届いているはずです。
それでも込み入った問い合わせがほとんど入らないなど、売れる気配が感じられないようなら、価格を見直せばよいのです。
【第2段階】少しずつ価格を下げていく
売り出しを開始して1ヶ月も経てば、「両手仲介狙いの囲い込み」といった仲介業者の悪質な行為がなければ、売り出しの情報自体は市場に充分出回っているはずです。
売れる気配がないのなら、問い合わせの状況を確認しながら、価格を見直すことで数字を良くしていくのがよいでしょう。
一部の不動産会社からは「売り始めは高めにスタートして、後から価格を下げていくと、何かしらの不具合など特別な事情があるから売れ残っているのでは……と購入者側から勘ぐられ、かえって売れにくくなるので得策ではない」などと言われることもありますが、本当でしょうか。
1日の取引件数がエリア全体で数件といった地方の話ならわからなくもないですが、常時1,000件以上の売り出し情報のある東京ワンルームマンションの場合には当てはまらないと考えてよいでしょう。
よくも悪くも、あなたが売り出す物件も数多くある物件のなかの1つにすぎません。
あなたが売り出した物件がいつから売り出されていて、売り始めの価格からいくら価格を下げたのかを把握している買主候補はほとんどいないでしょう。
まずは高値で売れるチャンスを遠慮なく追いかけたうえで、その後で価格を下げていく戦略をとりましょう。
【第3段階】「売ってもよい」と考える下限の価格が近づいてきたら、後はそのまま待つ
段階的に価格を下げていっても物件が売れず、込み入った問い合わせも入ってこないようなら、「それ以下では売りたくない」という価格、または価格交渉の幅を残したその一歩手前の価格で、一定期間待ってみましょう。
売れるかどうかは、1人の購入希望者が手を挙げるかどうかですが、その手を挙げてくれるタイミングはさまざまです。
相続でまとまった現金が入り、今日から物件を探しはじめる方がいるかもしれません。
顧客にすすめていた物件の仕入れが不測の事態で流れてしまい、代わりの物件を今日から急いで探しはじめた買い取り転売業者もいるかもしれません。
段階的に価格を下げていったなかで、ここまで売れる気配がないようなら、このまま時間をかけたとしても売れる可能性が高いとは言えませんが、一定期間はそのまま様子を見てみましょう。
その上で、それでも動かないようなら、売り出しを一旦やめることも検討しましょう。
ここでなんとしても避けなければいけないことは、売れていないからといって、いつの間にか売ることだけを目的にしてしまい、ズルズルと価格を下げていってしまうことです。
実際に売り出してみて希望する価格帯で動かなかったということは、売りたい価格と市場での相場観にズレがあるということです。
その現実を受け入れたうえで、売り出しをやめるのか、売り出しの価格戦略を見直すのかを再度検討することが必要です。
どういうかたちであれ、自分なりの根拠をもって、「売り切った」または「売ることをやめた」と後々振り返れることが、自分自身で納得のできる投資活動のために大切だと思います。
3段階の価格戦略の事例
【自分の希望】できれば2,000万円以上で売りたい
【想定の市場の相場観】1,900万円〜2,100万円
- 当初売り出し価格
- 1ヶ月後の見直し価格
- その後の2週間ごとの見直し価格幅
- 売り出し下限価格(価格交渉幅50万円確保)
2,200万円
2,150万円
50万円
2,050万円
このように、売り出し価格については3段階で考えた戦略をとることが、相場より高い価格での売却を目指しながら、それが叶わないなら現実的なレベルでの成約を狙いながらも、後で後悔するような売り方だけはしないために最適です。
そして、こういった売り出し価格の戦略を立てるためには、売れる価格ごとに異なる手残り現金の試算は必要不可欠なものと言えるでしょう。
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